へぶんずぷれいす

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桃の華が月に咲く

密やかな恋の物語



「連れてきたぞ!」
ガラっと、大きな音を立てて、開かれた扉から戻ってきた先輩。
その顔は興奮気味で、だけど、
「え?」
「ワハハ。」
そこには、先輩しか居ない。
ぽかんと見つめると。
「ここだ。」
先輩が動くと、先輩の後ろから…まるで幽霊のようにゆらっと現れた彼女。
「っ!」
不安そうな顔が、印象に残った。


そして、一瞬だけ、時が止まったかと思った。


「ワハハー、良くやったぞーユミちん。」
部長の声で、はっと我に返る。
「あぁ、これで、個人戦だけじゃなくて、団体戦でもエントリーできるぞ。」
嬉しさでいつもは冷静で物静かな加治木先輩が、興奮気味に言った。
「ワハハ。ところで、この子の名前は?」
「あっ。」
「……ワハハ。」
「す、すまない。名前は…。」
振り向き、申し訳なさそうに、彼女に名前を聞く先輩。
「あ、東横桃子っす。よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げた。
サラサラの黒髪が、肩から流れて落ちた。
「ワハハ。私は、蒲原智美。一応、麻雀部の部長だ。」
「え?」
「ワハハー、意外って顔するなぁー。」
加治木先輩が部長だと思い込んでいたのだろう。
…私もそう思っていたから、気持ちはとても分かるのだが…。
「いえっあ…すみません。よろしくお願いします。」
「ワハハー。で、こっちが。」
部長に目配せされて、頷く。
「2年の津山睦月です。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
「……うむ。」
ぺこりともう一度頭を下げた。
緊張で強張った頬。


トクントクン。
心臓が呼吸をする。


「ワハハ。しかし、よくやったよ、ユミちん。」
「あぁ…あぁ…。」
嬉しそうに頷く。
部長は、加治木先輩の肩をぽんぽんと叩いた。
「ところで、ユミちん。どうやって連れてきたんだぁ?」
「!?……それは…」
言い淀む加治木先輩。
「ワハハ。」
面白いことを見つけたという風に蒲原部長は笑った。
蒲原部長に突っ込まれつつ、頬を染めて、少し、うつむき加減の加治木先輩を、
少し離れた所で、彼女は見つめていた。
「………。」
その瞳の色を私は忘れない。
迷子だった子どもが、親に見つけられた安堵のような、それだけでない…瞳の色を。


だから、ほんの少し時がたったある日。


二人が、付き合いだしたと聞いた時。
驚くことは無かった。


ただ、少しだけ、ココロが涙を零しただけ――


*****


「おつかれ、津山。私たちはそろそろ帰るがどうする?」
放課後の部活。
「あ、私は、もう少しだけ打って帰ります。」
「そうか、じゃ、鍵をお願いできるか?」
「はい、わかりました。」
加治木先輩から鍵を受け取る。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様、いくぞ、モモ。」
「はいっす。むっちゃん先輩、お疲れ様です!」
「お疲れ様。」
軽く手を挙げて、2人を見送った。
PCに向かい、前回の牌譜を確認する。
もう一局と思った所で、ふと、立ち上がって窓辺に立つ。
「………。」
丁度、加治木先輩の後ろ姿が見えた。
横を向いて、何か話しかけている。
ここからでは、隣にいるであろう、彼女の姿を確認することはできなかった。
それでも、想像をする。
夕日に赤く染まった頬で、先輩を見上げる。
あの笑顔を。
想像して、想う。


ただ、静かに。
ただ、穏やかに。


『先輩、大好きっす!!』


そうして、願っている。
彼女が幸せであれと。
このまま、いつまでも。


*****


月日は、流れて、私は三年生になった。


「もういいっす!バカっ!!」


大きな声とバチンっと携帯を閉じられる音が部室の外からした。
行ってみると、冷たい廊下で蹲る彼女がいた。
加治木先輩は、卒業して、東京の大学へと進学した。
距離なんて関係ないと、先輩を送り出した彼女。
しかし、目に見える距離は、常に一緒に行動を共にしていた2人に、
少しばかりの亀裂を生じさせていたようだ。


「……っ…。」
「モモ?」
「…っ……っ…。」
「加治木先輩、どうかしたの?」
声を抑えて静かに泣く彼女は、今にも消え入りそう。
「……モモ。」
「………。」
膝に顔を埋めたまま、首を振った彼女。
放って置いて欲しい。
そういうこだとしても、放っておくことなんてもできるはずもない。
沈黙が落ちて、すすり泣く声が、私たち以外に誰もいない廊下に静かに響いた。


『来週、久しぶりに会えるっすよ!』


と、嬉しそうに話しいていことを思い出した。
……もしかしたら、その関係のことなのか。
想像が頭をよぎって、…小さく震える彼女をそっと抱きしめた。


「!?」
「大丈夫だよ。」
「………。」
「うまくいかないこともあるよ。」
「むっちゃん部長…。」
「話聞くからさ、一人で泣かないで。」


“好きだよ”


ズルい言葉は、飲み込んだ。
良き先輩として、良き後輩として。
何よりも、2人の友人として。


「………。」
「私じゃ、役不足かな?」
「………むっちゃん部長…っ……ありがとうっす…。」
「……うむ。」
ぎゅっと抱きついてきた彼女。
柔らかな黒髪をそっと撫でた。
彼女は、私の腕の中で、静かに泣いた。


離れ離れの恋人を想って。


私は、ただ、彼女を抱きしめ続けた。


窓の外。
空は、ココロとは裏腹に、どこまでも青かった。



*****



それから二年後。


彼女と出会ってから、三年目の春。



新幹線の改札前。
久しぶりに鶴賀麻雀部のメンバーが勢ぞろいしていた。
「ワハハー。」
「お気をつけて行ってきてください!」
「うむ…、いってらっしゃい。」
「はい!行ってきます!三人とも、遊び来て下さいね!」
加治木先輩を追いかけて、彼女は、東京に進学を決めた。
彼女のはじける笑顔が眩しく感じた。
「しかし、同棲とは思い切ったよねーユミちん。」
「なっ!?ルームシェアだっ!」
「ワッハッハッー、まぁ、そういうことにしておいてあげよー。」
蒲原部長の言葉に、慌てる加治木先輩。
笑い声が、楽しく溢れ出た。
そうしていると、彼女たちが乗る新幹線の時間が迫っていた。
「…そろそろ時間だ。行こうか。」
「はいっす!」
彼女は、加治木先輩を見て、にっこり笑って頷いた。
「ワハハー、名残惜しいなぁー、また、すぐに帰ってこいよー。」
「あぁ、勿論だ。」
「帰ってくるっすよ!先輩と一緒に!」
「ワハハー。ちょっといらっとするぞー。」
「えー?なんでっすかー?」
コントのようなやり取り。
彼女の瞳が、少し揺れた。
加治木先輩との新生活に東京での暮らし、不安が無いわけが無いのだろう。
「ワハハ。いつでも待ってるからなぁ。」
「……蒲原元部長……はい!」
蒲原部長が、彼女の肩と加治木先輩の肩をぽんっと叩いた。
「ワハハ、いってこーい!」
「加治木先輩も、桃子さんもお元気で。」
「……うむ。また、会いましょう。」
「ありがとう、みんな。」
「ありがとうごさいます!」
なかなか、足が動かない。
「ほら、モモ。」
「…はいっす。あの。」
彼女が一人一人の顔を見る。
「蒲原元部長、かおりん先輩、むっちゃん部長…ありがとうございました!みんな大好きっす!」
ちょっと泣き出しそうな顔だけど、弾けるような笑顔で。
「ワハハ。ありがとう、モモ。」
「桃子さん…また、一緒に麻雀やりましょう!」
「…………うむ。」
それぞれがそれぞれに気持ちを伝える中、私は、声を出せずに、ただ頷いた。

「それじゃ、行ってくるっす!」
「みんな、元気で。」

何度も振り向いて、手を振る彼女。
先輩は、その手を取って、時折振り向き、目配せしつつ、前を歩いて行った。
そして、後姿が見えなくなった。


パタタッと、床に水滴が落ちた。


「……ワハハ。」
「ど、どうされたんですか!?睦月さん!?」
「え…あれ……?」
ぐにゃりと世界が歪んだ。
ばっと、目元を拭っても、後から後から溢れ出す。
それを私は止めることが出来なかった。
「ワハハ、むっきー。」
ずいっと、下から蒲原部長に覗き込まれた。
「よくがんばったなぁー。」
「!?」
「無理せず泣いとけー。ワハハ。」
「………ありがとうございます。」


蒲原部長の肩を借りて、私は泣いた。
ぽんぽんと背中を叩かれる。
小さいけど、大きな蒲原部長に感謝する。


麻雀部に入ってよかった。


みんなと出会えてよかった。


彼女と出会えてよかった。



ありがとう。



*****



それから、約一ヵ月後。



私は、地元大学の二年生となった。
高校に引き続き、麻雀サークルに所属している。
今日は、その勧誘活動の日で、手伝いに借り出されていた。

「麻雀サークルでーす!よろしくおねがいしまーす!」
と、同期の友人が声を掛けている。
その後ろで、私は、机のある椅子でぼぅっとしていた。
「………。」
賑わう校内。
がやがやとした音が、心地よく感じる。
「あの。」
「………。」
「すみません!」
「!?あっはい…すみませ……ん…。」
あれ?っと思った。
「麻雀サークルに入りたいのですが…。」
「………。」
「……あの?」
「あ、はいっ、はい。じゃ、ここに名前をお願いします。」
「はい。」


新しい季節。


「書けました。」
「はい、ありがとうございます。えーっと、南浦数絵さん…。ん…。」
「?」
「あ、すみません。覚えてないかもだけど、高校の時、個人戦で戦ったことありますよね?」
「え?本当ですか?」
目を大きく見開いて、驚いた表情。
後ろで縛られた黒髪が、春の風に揺れた。


新しい出会い。


新しい恋の予感は、小さな花の蕾のように。



END



以上です。
むっきー視点のかじゅモモ←むっきーでした。
ありがとうございました。
むっきー大好きだよ、むっきー!
この先は、むっきーも幸せになってるよ!!!!!
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Date:2010/06/17
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